戦国ブログではお久しぶりです!
今回は討鬼伝シリーズの作文を初めて書いてみました。
討鬼伝に出てくる軍師の九葉にハマってしまいまして・・・
そんな九葉をメインに、彼に真田丸無双ver.の昌幸さんがミタマとして宿っていたら、という創作小説になっております。
短めの話になっておりますが、お暇潰しにでも楽しんで頂けましたら幸いです!
※討鬼伝2のネタバレが含まれておりますのでご注意ください。
表裏の軍師 <討鬼伝の九葉・真田丸無双の昌幸>
約ニ年間、空白のままだったマホロバの里の頭が、漸く決まった。
里の者達は新しい頭の誕生を喜んで、ここ数日祝いの宴が場所を変え人を変え、昼夜関係無く、ひっきりなしにあちこちで開かれている。
そんな幸の空気が満ちた里中をよそに、霊山からやって来ている軍師は独り、自室へと戻っていた。
時は夜半過ぎ。
彼の手には、白磁の盃がふたつと、小振りの瓶子がひとつ。
窓際に置かれた小さな卓にそれらを置くと、目の前の障子を三寸ほど開ける。
雲がほとんど無い夜空には下限の月が浮かんでおり、灯りがともされていない軍師の部屋へ、ほの白い光が細長く差し込んだ。
半月の柔らかな光を頼りに、彼は燭台と燐寸を引き寄せる。
慣れた手つきで燐寸を擦り、蝋燭へ火を灯すと、憂いを含んだ軍師の様子が温かい光に照らし出された。
その彼は長い白髪の上部をきっちり結い上げ、下ろしている部分も腰の辺りで緩やかにひとつに纏めている。
日中必ず付けている折烏帽子は外され、軍師の装束もこの時間は脱いで濃紫色の袷と黒の袴、という軽装に変わっていた。
目元に注した朱だけはそのままで彼は小さく息をつくと、障子を開いた窓を左側にして卓の前に座り、目の前に置いておいた一輪挿しへと手を伸ばす。
そこには、儚げに咲く白色の小菊が挿されていた。
今朝、里を歩いていた時に道端で咲いていた姿をたまたま目にして、自ら手折ってきた花である。
その白菊を暫く眺めてから卓の中央に置き、次に持って来た杯を己の前と、誰も居ない対面へ置いた。
「つまみを持って来てやるほど私の気は利かぬが、構わんな?」
彼はそう呟くと、瓶子を傾けて二つの盃へ静かに酒を注ぐ。
酒を注ぎ終わると、軍師は居住まいを正してゆっくりと目を瞑った。
仮住まいのこの宿舎のすぐ近くでは、今宵も里の者達が宴を開いてどんちゃん騒ぎをしている筈なのだが、彼が居るこの場所にはその騒ぎが一切聞こえてくる事は無く、夜中の静けさだけが部屋の中を満たしている。
声を出さず唇だけを動かして何かを読み上げる軍師の近くで、不意にじわりと空間から滲み出るように半透明の球が音も無く現れた。
それは球体から少しずつヒトの形状へと変化し、軍師が何事かを読み終わる頃には、彼の傍らで朱色の戦装束の上から半身の陣羽織を身にまとった、年のころは壮年の頃であろうと思える男の姿にまでなっていた。
『・・・失礼。邪魔をしたか?』
軍師が目を開いてこちらを確認するまでゆったりと胡坐を組んで待っていたヒト型の存在は、そう語り掛けて肩を竦めて見せる。
いつの間にか現れた不可思議な存在に語り掛けられた軍師は、動じることなく鼻を鳴らした。
「今更なにを。迷惑だったらとっくの昔に追い出している」
こちらの腹の底は知っているような口ぶりに、ヒト型の存在は左右に綺麗に分かれた長い黒髪と白髪を揺らして笑う。
『ふふ、それは勘弁して欲しいものだ。流石の私でも、お前に追い出されてはまた鬼に喰われてしまう身ゆえ』
盃に伸ばしかけた手を止めて、僅かに身体が透けている相手を軍師は見つめた。
「さて、それはどうであろう?ミタマの身でも、貴方の才は衰えていない。自らを喰った鬼をも遣ってしまいそうだが」
小手をかちゃりと鳴らし、戦装束のミタマは眉間の皺を深くして腕組みをする。
『それが出来ていれば、九葉の世話になっていることも無かっただろうよ。まあ、むしろその無力が幸いして此処に居ることが出来ている、とも言える訳だが』
九葉、と名を呼ばれた軍師も相手に合せるように己の眉間へ皺を寄せた。
「・・・して、昌幸殿。何か御用でも?」
九葉に問われた昌幸、真田昌幸のミタマは、顎に手を当ててしらじらと光る卓の上の盃をじっと見つめる。
相手の目線の先に何があるのかは九葉も知っているので、同じものを見つめることはせず、彼は開いた障子の隙間から夜空を見上げた。
『また、この日が来たのか』
暫くの沈黙の後、昌幸がぽつりと言葉を落とす。
星を探しながら、九葉は低く嗚呼と返した。
「早いものだ」
相手の短い言葉に、昌幸は顔を上げて九葉を見つめた。
『私も、この献杯に付き合わせて貰おうと思ってな』
夜空を見上げたままの相手の横顔は、何の感情も表さない。
返事すらしないそんな軍師の姿に、昌幸は仕方が無さそうに苦笑いを見せた。
『私が邪魔なのは承知している。だがな、これでも一応、おのが主の心配をしに来ているのだぞ?』
ちらりと昌幸へ目を遣ってから、九葉は目の前の盃へ手を伸ばす。
「ふ、戦国の名軍師から心配されるとは。私も捨てたものでは無いか」
盃を空ける九葉の喉元を見ながら、昌幸は意地悪気な笑みを口元に浮かべた。
『毎年この日のお前は酷い顔をしているゆえな。愚痴くらいは聞いてやろうと出て来てやったのよ』
ことり、と杯を置いて九葉が半眼で昌幸を見据える。
「他人に聞いて貰うような愚痴など私には無い。そして、過去を振り返って懺悔をする良心も持ち合わせてはおらぬ」
こちらの気遣いを不愉快げな声で一蹴した相手を、昌幸は可笑しげに笑い飛ばした。
『はは、そう怒るな、坊主』
子供扱いされた九葉は眉間の皺を深めてぷいと顔を背ける。
「齢五十の男を捕まえて何を・・・貴方の軽口は昔から好かぬ」
『今の生で五十など、私にとってはまだまだ坊主よ。たまにはこの歳上にも付き合え。それに、お前が霊山の軍師になってからは、こうして語る機会も少なくなっているのだから』
盃に酒を満たしながら、九葉は深い溜息をついた。
「・・・やれやれ。なんとも口うるさいミタマを宿してしまったものよ」
『他人事のような言い方をするな。減らず口はお前も似たようなものだ、軍師という職務は口が回らねば務まらぬ。お前にも良く分かっていよう?』
二杯目の酒を空けると、傍らでにこにこしながら鷹揚に構えている昌幸を九葉は呆れ顔で眺める。
「ミタマ一人でこの騒ぎ。複数のミタマを抱えるあやつの中は、さぞ五月蠅かろうな」
その言葉を聞いた昌幸の顔に、精悍さが戻ってきた。
『あやつ・・・お前の、元の部下の事か』
顎の辺りを撫でて、九葉はふと昔を思い出すような目つきを見せる。
「十年前・・・横浜で見た一瞬の幻影のようなモノが、まさかこの里で、あやつの存在で結びつくとはな。私でも流石に驚かされた」
お頭詮議の為に訪れたマホロバの里で、ひょいと自分の前に現れた人物の顔を見た時、血が逆流したかのような衝撃を受けた事を九葉は改めて思い出す。
昌幸に言わせれば、それこそ『酷い顔』をしていたのだろう。
頭の中を高速で整理しながら、忘れまいと当時の己に誓った、十年前の横浜での一瞬の光景を記憶の引き出しから慌てて引っ張り出していたこちらの苦労など、あのぼんやり顔の元部下は気付いてもいなかったのであろうが。
九葉の話に、昌幸も今までの出来事を思い出すような様子を見せながら首を傾げた。
『確かに、妙な偶然が重なった件ではあるな。だがその再会、お前にとっては幸いだったではないか。横浜の不可解な出来事が、十年越しにようやっと終結できたのだから』
昌幸の言葉を聞きつつ、瓶子を傾ける九葉の表情は冴えない。
「・・・そうだな」
『なんだ、すっきりしないその声は』
訝しげな声を出す相手に構うことなく、ひそやかに卓を飾る白菊へ、九葉は目を落とす。
「十年ぶりに会ったあやつから、老けたと言われた事を思い出してな」
ほう、と昌幸が口元を緩めて九葉へ顔を寄せた。
『心外であったのか?』
可笑しげに問うてくる昌幸を、片眉を上げて軽く睨みつけると、九葉は再び杯を空ける。
「生きていれば歳は取るものよ。若さなどに固執などしていない。ただ」
『ただ?』
「私は・・・・・・いや、止めよう」
何かを言いかけたが、九葉は途中で話を切り上げ、手の中の盃へ目を落とした。
その様子をじっと見つめていた昌幸が、ふと腕組みを解いて左手のこぶしを開く。
相手の横顔と己の手の平を暫く交互に眺めてから、彼はそろりと九葉へその左手を伸ばした。
「っ!?」
はっと、九葉が我に返った表情で昌幸に顔を向ける。
『やろうと思えば出来るものだな』
左手をこちらに伸ばしたまま、昌幸は目を細めて微笑んでいた。
ふんわりと、自分の髪を撫でられた感覚が錯覚では無かったのだと九葉は相手の言葉から確認する。
『自分の子供達へもこのような事、殆どしたことは無いのだが』
気恥ずかしげにそう言って笑う昌幸に、撫でられた辺りへ手を遣りながら九葉が不機嫌そうな声を上げた。
「だから何だと言うのだ。驚かせたいのならば、他所でやってくれば良いものを」
『はは、そう怒るな。お前のつまらぬ思考を中断させたくてな』
昌幸の言葉に、九葉の顔つきが険しくなる。
その表情に、昌幸は己の予想通りだと肩を竦め、胡坐を組み直した。
改めて九葉に向き直ると、彼は鋭い光を瞳に湛え、口を開く。
『九葉』
先程までとは違う相手からの呼びかけに、軍師も何かを察して背筋を伸ばす。
『お前の血にまみれた決意は、錆び付いてなどおらぬ』
美しい低音の響きが、凛と九葉の身体に響いた。
『この十年の働き、決して無駄にはなっておらぬ。物事は進み続けているのだ。止まるな、前を向け、血濡れの鬼よ。軍師・九葉よ』
じっと昌幸を見据えていた九葉の瞳が、僅かに揺れる。
そして、鋭かった瞳の光へ徐々に柔らかさが戻ると同時に、口元が緩んだ。
「・・・全く」
白髪を揺らして俯き、額に手を当てながら、九葉が絞り出すように声を出す。
「貴方には敵わない」
ニヤリと、昌幸も不敵な笑みで返した。
『当たり前だ、坊主。何年共に居ると思っている』
「嗚呼、そうだな。数えたくも無いが」
皮肉を返しながら、懐の奥にしまっている角飾りを取り出す。
それは九葉が軍師になる前の、モノノフとして鬼を討伐していた証。
稀代の軍師を己の身に宿す切っ掛けにもなった、鬼の角でもある。
相手の手の平にある品を見つけて、昌幸もほうと声を上げた。
『懐かしいな。お前が弓を引いていた頃のモノか』
「あの経験があるから、今が在る。横浜でどれだけの血が流れたかを知っているからこそ、私は此処に居る」
独り言のように九葉はそう言うと、モノノフの証を握り締める。
「真田昌幸殿、頼みがある」
『何だ?』
顔を上げて昌幸のミタマを見つめる九葉の目は、先を見通す軍師の鋭さを取り戻していた。
「今少し、私に付き合ってくれ。此処からが本番だ」
律儀な軍師の願いに、昌幸は片側の口角だけを上げて頷く。
『承知した。この表裏比興の才、存分に使ってみせろ』
挑発にも似た返答に、九葉の目がきらりと光った。
「ならば遠慮なく使い倒して差し上げよう。九度山へは返さぬゆえ、お覚悟を」
『ははは、それは楽しみだ。あそこは退屈過ぎて仕方が無かったからな』
からからと笑う昌幸につられるように、九葉も白い歯を見せて笑う。
そんな時代を超えた稀代の軍師同士の不思議な会話を聞いていたのは、十年前の今日、横浜防衛線で散った部下達へ九葉が手向けた、卓上の白菊だけであった。
(おわり)
討鬼伝シリーズに登場する九葉と、真田丸無双の真田昌幸を組み合わせた創作話でした。
頭の切れるイケオジ同士の作文をしたくて。
OROCHIみたいな公式の混合モノがあるなら良いかなと(笑)
九葉が元モノノフだったとか、弓遣いだったとか、真田丸の昌幸がミタマだとか、ほぼ、私の妄想設定ですのでご注意くださいませ。
九葉どのは本当はとても優しくて、律儀だから、横浜防衛線の日は毎年必ず花と酒を忘れない人だと思って書いてみました。
そもそもミタマと持ち主がどれ程の意思疎通が出来るのかが気になりますが・・・九葉と昌幸は何やかんや言いながら軍師同士、相性良さそうです。
無双版の昌幸は賭のミタマじゃなくて操のミタマっぽい、とかそんな妄想を繰り広げています。
妄想を形に出来て楽しかったので、また九葉どのメインで討鬼伝の作文したいですね~
お付き合い下さいまして、ありがとうございました!
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