ご無沙汰しておりました!
一か月以上更新しておりませんで・・・相変わらずむらの多い場所ですみません;;;

さて、お久しぶりの更新は、ビックリするほど個人的好みが配合された創作話です。
BSRの久秀様に語る過去があったのならば、というお話になっております。
完全妄想の三好長慶さまが出て参ります、そういった部分の脚色が苦手な方はご注意くださいませ。

それでも暇潰しに眺めてやるか、と思って下さったかた、ありがとうございます!
良きお暇潰しとなりますように・・・
長めのお話です、信長さまもチラッと出て参ります。

それでは本編は続きボタンよりどうぞ♪ 
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午前三時の御伽噺 <久秀と長慶>

 

 

 

本当の事しか言わない主義だよ、と笑う男を心底信用している訳ではない。

この男の言う本当、とは清廉潔白な真実ばかりではないと分かっているからだ。

しかし、ふとした折に紡がれる相手の言葉には、此方の心に沁みこんでくる何かが含まれていることもある。

昼間、ある武将を見かけた時に発せられた松永久秀の言葉はそういった類のものだと、織田信長には直ぐに気が付いた。

「久秀」

床に広げられた地図から、相手が目を上げる。

「地形は把握したかな、随分と入り組んだ造りの砦だ」

「昼間、お前は何を思い出していた」

こちらの話などお構いなしの問いに、松永の眉間に皺が寄った。

「何の話かね」

「敵の陣構えを下見していた時よ。小倅の傅役に、お前は何を思い出していたか」

ある人物の存在を口にされた松永は、地図へ再び目を落とす。

「聞こえていたのか」

「嫌でも聞こえる大きさだったぞ」

信長の間髪を入れない返答に、無表情のまま片側の口角だけを上げて笑うふりを見せた。

「いやはや、卿の地獄耳には敵わないな」

露骨に話題を流してしまおうとする梟雄をねめつけ、信長は腕組みをして片眉を上げる。

「誤魔化すな。お前はあの傅役に、何を重ねていた?」

更に問われた松永は、目を細めて低い声を出した。

「それを卿に話してどうなる」

威嚇にも似た相手の声音を、信長は鷹揚とした態度で受け止めて鼻を鳴らす。

「語りの結末など知らぬわ。俺に問われるきっかけを作ったのは弾正、貴様自身ぞ」

信長の引く気の無い言葉を不快そうな目つきで聞いていた松永が大きなため息をついた。

「確かに不用意な言葉を口にしたのは私だがね、その真意を卿が知るには無理がある、と言っているのだよ」

「語る前から決めつけるか」

「そうだ。知りたがりは時として己の糧となる。だが今回はそうとはならぬ」

「愚図愚図とやかましいわ!俺が語れと言っている、久秀」

ぴしゃりと怒鳴りつけて逃げ口上などないと信長が態度で示すと、相手は漸く折れたかのように鬢の辺りを梳く仕草を見せて目を閉じる。

「・・・そんなに聞きたいのかね?古びた昔語りを」

観念した様子で肩を竦めた松永を見て、信長は腕組みを解いた。

「どうせ思い出したのならば語ってゆけ。他で口にすることもない昔話であろう」

第六天魔王より話し手としての役目を負わされた松永が、ゆっくりと目を開けて居住まいを正す。

「宜しい。ならば暫しの時をこの梟が頂くよ。今日、竜の右目に見た、いつぞやの・・・とある不可思議な主従の話に」

 

 

ある時、ある男の元に、文が届いた。

彼にとって見慣れた流麗な手跡の文だったが、その内容に軽く首を捻る。

後日その謎を解くため、多忙な合間を縫って通い慣れた屋敷を訪れた男は、久方ぶりに見る主の凛とした姿に軽く眉を上げた。

「殿」

小さな驚きを見せた相手に、宅主はやつれた端正な面差しに微笑を浮かべる。

「今日は気分が良くてな。お前が来ると聞いて尚のこと」

下座に座る位置を決め、男が腰を下ろそうとするが、相手が軽く手招きをするものだから彼は軽く肩を竦めた。

「嬉しいお言葉を。しかし卿はそうやってすぐ無理をなさる」

己の目の前まで歩み寄り、座った年長の男の心配げな声に、殿と呼ばれた青年は脇息に凭れて静かに笑う。

「お前の前で無理はしないさ。私の事を弾正は何でもお見通しだから」

「して、何の御用でしょうか?文を頂きました」

礼儀正しい部下の言動に、主はなぜか苦笑して鼻先を掻いた。

「そこまで畏まらなくてもいい。今日はお前に目くじらを立てる者は来ていないし」

穏やかに緊張を解くよう促されても、男は逆に眉間へ皺を寄せて首を振る。

「いや、どこに目があり、耳があるか分かりませぬ。私の言動で卿の立場が不利になるような事だけは・・・」

低い懸念の言葉を、主はたおやかな手つきで黙らせ、微笑したまま脇息の上で頬杖をついた。

「だとしても構わぬ。お前のことは私が分かっているつもりだ。それに、」

青年の聡明な瞳がきらりと光る。

「お前の悪口はもう聞かされ飽いていて、大した刺激にもならぬのよ」

くすくすと無邪気に笑う主に、男は眉を下げてつられるように微笑した。

「これは・・・私の負けですな」

うん、と嬉しげに主は頷いて、頬杖を外す。

「では本題に入ろうか。忙しい中お前に来て貰ったのは、少し耳を傾けて欲しい話があってな」

「随分と気弱な文を戴いた。御身の近くに何か?」

「今の話では無い、これから先の話だ」

ほう、と相槌を打ちながらも釈然としない様子の男を、相手は静かに見つめた。

「弾正。この先、私はお前とこんな風に語り合える時間があるのか分からぬ。ゆえに、伝えておこうと思う」

含みのある相手の言い方に、男の眉根に深い皺が刻まれる。

「以前にも私は卿に話した筈。その様に己の先を狭める物言いはいけないと」

「いいや、悲観してこの様な語りをしている訳ではない、まあ聞いてくれ」

「・・・・・」

眉間の皺はそのまま、黙って頷いた男へ安心させるように微笑を向けて、主は口を開いた。

「私は、ずっとお前に護られて生きて来た。幼き頃に亡くした父よりも遥かに近しい存在として、常にお前が居てくれた、そのお蔭で今の私が在り、喜びがある」

だが、と若者のやつれた顔に影が差す。

「私の想いとは別に、お前はどうなのだろうか、と考えるようになった。私の傅役として父から取り立てられて以降、お前はずっと公の顔を作り、私(わたくし)を抑えて来たのではないか、と」

「杞憂だよ」

呆れた様な声を出した男は肩を竦めて顎を撫でた。

「私がそんな長きにわたって我慢など出来る性格ではないと卿が一番分かっている筈ではないかね?」

いつもの心配性からの発言だと思われた若者は、寂しげに笑って首を振る。

「ああ。そしてお前は人一倍、自制が出来る男だというのも分かってきた」

穏やかな反撃に、男はいつもと違う話の流れに気付いて口を噤んだ。

主は口元に微笑を残したまま、男の顔を見つめる。

「更に言ってしまおうか。忠義、という言葉ひとつでも、お前は自身を縛る事が出来るのではないか?」

返事をしないで黙って此方を見つめる男に構わず、若者は視線を開け放した障子の向こうの庭先へ向けた。

「身体が弱ると、今まで見えなかった部分が見えるようになるらしくて、な」

庭先を眺める当主の横顔は長く病み付いてしまっているせいで頬の肉は痩せ、血の気は無く、酷く儚げな印象を見る者に与える姿となってしまっているが、今の彼の眼の光だけは健康だった頃の活き活きとした色に輝いている。

その目の光の強さに男は妙な不安感を胸に覚えて、ただ相手を凝視している事しか出来なかった。

目線は動かさないまま、若者の口が再び開く。

「なあ弾正・・・どうか誤魔化さず教えてくれぬか。お前を縛る忠義とは、私の家に対するモノか?それとも私個人に対するモノか?」

そこまで言うと、彼は男からの答えを待つように目線を相手に戻した。

凛然と目の前に座り、動じることなく此方の話を聞いていた男の肩が、その問いに対してほんの僅か揺れたように見えた。

顔色を変える事はしないが、男と付き合いの長い主には、彼が少なからず動揺したのだと察することが出来る。

男はすっと半眼になり、無表情のまま暫く黙ったあと、ゆっくり口を開いた。

「あまり、考えた事は無かったがね。そう・・・卿が真摯に知りたいのであれば、私も応えなければいけないな」

きちんと応える事が自らの責任だと男は思ったのだろう。

上手くはぐらかされるのではないか、と小さな懸念を抱いていた若者は、その言葉に微笑で返した。

男も微笑で応えると、落ち着いた口調で言葉を紡ぎ始める。

「私が今、この様に居るのは、卿が存在しているからだよ。卿の御父上から受けた恩は勿論忘れてはいない。だがね、実の所、家の為に尽くそうと思っていない己が昔から居る、そういう類の者なのだよ、私は」

それは、筆頭家老という立場の男が口にするべき答えでは無かった。

主から不忠義者と斬られても当然の告白である。

しかし、当主は男の話を聞くと何故かホッとしたような笑みを浮かべて、肩の力を抜いたのだ。

「そうか・・・ならば話が早い」

主の安堵した笑みに、男の胸中に抱かれている不安は更に広がる。

心なしか厳しい顔つきで、男は相手に問うた。

「どういうことかね」

「弾正、頼みがある」

妙にさっぱりとした主の表情とこの言葉は、男にとって嫌な予感しかしない。

長らく気病みで鬱々と過ごしていた彼が、これだけ晴れやかな表情を見せていることが久し振りすぎて戸惑っているだけだ、と思い込もうとしたけれども、感情で物事を考える事をしない男には、そんな楽観的な思い込みなど効くはずが無かった。

男が内心で葛藤していることなど知らず、主は春風のように軽やかな声で男へ語り掛ける。

「もし私が死んだら」

殿、と低く遮りかけた男にひらりと片手を振って、若者は言葉を続けた。

「私が死んだら、お前はお前の生き方をして欲しい」

意外な頼みに、男が眉間の皺を深くして首を傾げる。

「・・・私の、生き方?」

抽象的な物言いだったかな、と主は少し困ったように笑って、手元の閉じられた扇を指先で弄びながら説明の言葉を探した。

「ずっと、考えていたのだ。何故お前が私の身内たちにああも謗られるのかと。我が身内乍ら恥ずかしい事だが」

男にとって今更な話を出されて、彼は呆れた声で何を今更、と返す。

「その理由は明確じゃあないか。私が卿の言葉に甘えて随分と好き勝手にやらせて貰っているせいだ、卿が思い詰める事は無い。自業自得だよ」

辛辣な自己評価に、主は寂しげに笑んで小首を傾げた。

「そうやってお前はいつも、自らが盾となり私を護ってくれたな」

弄んでいた扇を腰に挿し直し、開いた両手の指先を合わせ、物憂げな表情で主はゆっくりと首を振る。

「私の答えは違うのだ。お前の才の鋭さは、家中の者に理解できない程に大きな力なのだと思っている。それを私が見て見ぬ振りをしてしまえば、お前の才を妬む小さき力の者達によって、お前まで死なせてしまうだろう・・・家と言う小さな存在でお前を縛り、才を殺すなど」

言葉を止めた主が目を瞑って、息を一つ吐いた。

「それは、私が望む姿では無い」

絞り出すようなその声に、男は言葉を挟むことも出来ず、ただ見守るしか出来ない。

男の膝の辺りへ目線を落とし、主は何かを決めた表情で男へ語り掛けた。

「お前は、私が居るから此処に居るのだと言ってくれた。ならば、私という楔が抜けた後にお前を縛るモノは無くなろう。そこからはお前の才のまま、素直に生きてくれ。ま・・・きっと大騒ぎになるだろうけれど」

そこまで話すと、彼は相手の顔を見つめて微笑を浮かべる。

当主らしからぬ物騒な話に、男は家老の顔つきになって、半ば怒っているような声を出した。

「分かっていながらそういう事を言うのかい?お家が潰れる程の騒ぎにしたいのかね、卿は」

微笑の奥に寂しげな色を混じらせ、主は首を竦める。

「ふふ、要の者達は皆・・・逝ってしまった。どのみち既に半死半生の家よ」

「馬鹿なことを。要の卿はまだ生きている」

まだ終わっていない、と吐き捨てるように言い返す男を、主は目元に凛とした光を映して見据える。

「弾正。忠義というモノは、捧げる相手が存在してこその概念だろう?抜け殻になった忠義にしがみつくのは、別の者達の役割だ」

ふと、男の眼に主の影が薄くなったように見えた。

見間違いではないかと瞬きをしてみたが、明らかに輪郭がぼやけてきている、と確信した男は遠回しな言葉を探す余裕を無くして腰を浮かせる。

「まだ、抜け殻ではないと言っている!」

影がどんどん薄れていきそうな主を引き留めようと、思わず男は片膝立ちとなり声を荒げた。

珍しく大きな声を出した相手に主は少しびっくりした様子を見せ、それから申し訳なさそうに眉を下げた。

「そうだな・・・お前には、もう暫く頼らせて貰わなくてはいけなかった。少し、私が先走りし過ぎてしまったな、すまぬ」

儚げな主の影の濃さが戻ったことに気付き、男は内心で安堵しながら謝罪の言葉を見繕う。

「卿が謝る事ではないよ。私がだいぶん言い過ぎてしまったせいだろう。驚かせてしまって申し訳なかったね」

「構わぬ。ただ、少し疲れた・・・悪いが手伝ってくれぬか?」

素直に己の体調を告白し、差し出された白い手を男は力強く握り、先に立ち上がる。

「勿論。・・・立てるかね?」

手を借りてゆっくりと立ち上がった主は、相手へ悪戯気な笑みを向けた。

「そこまで衰えてはいない」

当主の小さな意地が含まれた返答に、男が大仰に肩を竦めて眉を下げる。

「それは失礼した。だが久方ぶりの長話の後だ、寝所までお送りしよう」

男の言葉に甘えて並んで廊下を歩きながら、主は呟くように相手へ語り掛ける。

「今日の話は忘れないでいて欲しい」

その言葉に男は応える事をせず、ただ前を向いて主の歩幅に合わせて歩いていた。

 

 

「・・・古い、話なのか?」

不思議そうな表情でそう問うてきた第六天を、松永が何故と問い返す。

問い返された信長は不審げな目付きで相手を見据えた。

「創作ではないのか?そのように自らの家を潰す勧めをする当主など今も昔も居る訳が無かろう」

おやと梟雄は口角を上げて顎を撫でる。

「初めに言わなかったかな、不可思議な主従の話だと」

試されるような物言いに、信長が不機嫌な声を出した。

「ではやはり、お前の創作か」

「さあ?昔語りに装飾はつきものだ」

明確な答えを示さず、意地悪気に笑う相手を信長が睨みつける。

「・・・この、梟・・・」

「公よ。竜の右目が主を喪った時、どうなると思う?」

問い詰めてやろうと身体に力を籠めたとき、松永が淡々とした問いをこちらに投げてきた。

「先程の主は、心を向ける相手を喪った忠義とは、抜け殻でしかないと語った。ならば、あの右目がその事実に気付いた瞬間、彼の忠義はいかなる形に変わるのであろうか」

この男が語るきっかけとなった人物の名を耳にして、信長は相手の疑問に意識が向く。

腹立たしさなど忘れ、腕組みをして暫く宙をにらんで考えていた第六天が、ゆっくりと口を開いた。

「あの男、随分な忠義者と聞いたことがある。小倅が死ねば、己も追って死ぬことで忠義とやらを全うするのであろう」

空を見上げて、梟雄はつまらなそうに息をつく。

「そうか・・・卿の見立ても、彼が抜け殻の忠義と向き合う事を避けると」

「明日、その者と向き合えばおのずと結果は分かる。つまらぬ予想など時の無駄よ」

そんな程度の疑問かと信長から叱られて、松永は苦笑いして鬢の辺りを小指で掻いた。

「そうだな、愚問に付き合わせてしまってすまなかったね」

相手の笑みを眺めながら、信長は先程の話の続きがふと気になる。

「それよりも久秀。主が死んだ後、その家老はどうなった」

信長の問いに、松永は笑みを浮かべたまま小首を傾げた。

「男は、主の言った通りにしたよ。抜け殻となった忠義を捨て、己の生き方とやらを貫こうとね」

織田家の当主たる彼には、それ以上に気になる存在がある。

「・・・主家はどうなった」

ついと陣幕の外を一瞥して、松永は静かに答えた。

「要の当主が死に、家老が己独自の道を歩み始めたことで、もともと弱まっていた家の者達は予想通りの内輪揉めだ。その先は卿にも分かるだろう」

「そうか」

短く応えた後、急に黙りこくった相手に気付いて松永は目線を戻し、静かに観察を始める。

腕組みをしたまま、一点を見つめてなにか考え込んでいた信長は、そうか、と同じ言葉を呟いた。

「その男、忠義者だったようだな」

「・・・うん?」

意外そうな顔をしている松永を、信長はニヤリと笑う。

「主の言う事をちゃんと聞いている。よほど慕っていたのだろう」

「そう、かも知れないな」

梟雄の無感情な心が、少し、揺れた。

捨てた筈のモノを、捨てられずにいるかも知れないという予感に気付かされて、小さな動揺が生まれている。

何故そんな鋭い指摘を、目の前の魔王殿は話一つで出来るのか、と考えた時。

『いつぞやの、尾張の若者・・・お前にどこか似ている気がする』

病床でそう囁いて、弱く笑った彼の声が蘇った。

その時分は彼なりの戯れであろうと笑ったものだが。

やはり、修理殿に弾正が勝てる訳も無いのか、と男は苦く笑って踵を返す。

笑みを隠すように此方に背を向けた松永を、信長は不思議そうな表情で見つめていた。

 

 

(終わり)

 

 

 

 

 

「卿を見ると、遠き日の私を思い出す」と「宴」で久秀が小十郎へ話していたことを改めて思い出して、こんな作文へ繋げてみました。

「宴」では、昔の己を思い出せるような台詞が結構あるんですよ、久秀様。

非常に個人的な設定の三好長慶さまと、松永久秀さまの関係話です。

長慶さまは久秀に利用された、という前提の話が殆どだと思いますが、あえて裏返しの設定にしました。

お互いが一番の理解者で、お互いを護るために久秀は悪役になり、長慶さまは身内の不満の受け止め役になってバランスをとっている、そんな関係だったらなんていう妄想ですね・・・

長慶さまの死が、同時に久秀の心を凍らせる出来事なのかも、という部分も書きたかったですが、自分のなかでタイムアップでした~・・・