こんにちは!
作文はお久しぶりです。
今回は、ちょっと自分自身がセンチメンタルな気分で書いていた作文です。
久信設定が前提のお話。
大変短いです。

お暇潰しになれば幸いです!


 
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 桐一葉

 

 

盂蘭盆会が過ぎて、夏の終わりが見え始める頃になると、元々気難しい様子の男は更に眉間の皺を深くして自室前の廊下から晩夏の庭を眺めている事がある。

今年はそんな姿が殊更よく見られて、宅内の者たちは主に何やら気病みでもあるかと遠目から心配げに観察していたある日、珍しい客人が姿を表した。

落ち着いた足音に宅主が目を向けると、相手は穏やかに、やあと声を掛けてくる。

「いつも忙しなく動いている卿がぼんやりしているなど、如何したのかね」

客人、松永久秀の言葉に、宅主の織田信長は眉間に皺を寄せて不愉快そうな顔をした。

「貴様こそ、いつもは呼びつけても来ないくせに、今日は自ら来るとは珍しいな」

「梟の気紛れだよ。邪魔だったら帰るけれども」

松永の問い掛けに答えず信長は立ち上がると、目で自室へと相手を招き入れる。

自分の動きに合わせて下座に腰を落ち着けた相手へ、信長は改めて声を出した。

「して、何ぞ用か」

相手の瞳をじっと見つめながら、松永がゆっくりと口を開く。

「少しの暇を、卿へ告げに来たのだ」

予想外の返事に、信長は瞬きを忘れて梟雄の顔を凝視した。

そんな彼に構わず、松永は言葉を続ける。

「なに、ほんの些末な用事でね、休暇を取る事にしたのだ」

「解せぬな。些末という程度で、俺の元に顔を出すのか」

警戒を帯びた声で信長が詰問すれば、男は口元だけで薄く笑った。

「確かに。信書ひとつでも事は足りるだろう、卿以外の者ならば」

嫌味にも近い相手の言葉に、信長の目つきが鋭くなる。

「遠回しの物言いは止めろ」

「ほら、きっと卿は紙切れ一枚の暇告げにはそう言って納得しない。私としては無駄な勘違いを避けたくて、こうしてやって来たのだよ」

信長の侍従が水を持って現れると、松永は口を噤んで立秋の過ぎた庭へ目を遣る。

宅主は侍従に人払いを命じると、膝元に置かれた椀へ手を伸ばした。

喉を潤す信長を静かに眺めながら、松永は再び口を開く。

「つまらない事ほど、拗れれば修正出来なくなる。今の私は卿とそうはなりたくないからね」

「暇の理由は何だ」

「気晴らしだよ」

ぽん、と簡単に言われた理由を、魔王はしかめっ面で聞いている。

そんな顔を見て、梟雄は苦笑いした。

「本当の事を言っているのだが・・・納得していないのかね?」

眉間の皺を深めて、信長は不機嫌そうに溜息をつく。

「つまらん嘘を付くようになったな、久秀」

上座から腰を上げると、きちりと座っている松永の面前まで歩み寄り、顔を覗き込むようにしゃがんだ。

松永は動じることなく、至近距離でこちらを見つめる相手と黙って目を合わせている。

お互い、暫く無言で見つめ合っていると、信長の口元がゆっくり動く様子が松永の目に映った。

「その顔色で気晴らしか?笑わせる」

微笑を浮かべていた松永の目線が、下に落ちる。

「これは驚いた。姫橘の顔色の悪さにさえ気が付かぬ卿が」

「たわけ。貴様の顔を見飽きているというだけよ。素直に養生と言えば良いものを」

顎髭を一撫でして、梟雄は肩を竦めた。

「養生、などという大仰なモノでも無いのだ。そんな言い方をすれば、魔王殿の眠りが更に削られるであろうと思ってね」

わざと茶化すような相手からの言葉に、信長の口元がへの字に下がる。

「阿呆。貴様の養生話など、笑い話にしかならぬわ」

目線を上げて魔王の顔を見た松永が、穏やかに笑った。

「おや、そうかな?なにやら一瞬、不安げな光が目の中に見えたのだけれども」

梟雄のからかいの混じった物言いに何か言いかけた信長だったが、ぐっと言葉を抑え、目を庭先にやって暫く考えるような素振りの後、久秀と低い声で名を呼ぶ。

「嘘を、俺は好かぬ」

松永が笑みを消して、ゆったりと頷いた。

「知っている」

「違えるな」

「うん?」

「少しの暇、と言ったのは貴様だぞ」

視線を天井辺りに投げ、松永は今までの会話を思い出す素振りをする。

「・・・嗚呼」

心許ない相手の声に、信長は強い目付きで梟雄を見据え、太い声を出した。

「違えるな」

ちゃんと返事をしろ、とでも言いたげな信長の目つきに、松永は目元に笑い皺を作って微笑む。

そして眼前の信長の癖っ毛へ優しく手を伸ばし、小首を傾げた。

「私もね、嘘が嫌いなのだ」

長い指で髪を梳かれている感触を確かめつつ、信長は鼻を鳴らす。

「貴様が嘘を嫌うなど初耳よ」

「裏切りと嘘が嫌いな性分でね、憶えておいてくれると助かる」

しれっと言いのけた松永は楽しそうに笑っていて、信長もつられて顔が緩んだ。

「この、梟め」

厳しさを解いて笑う信長を、髪を梳きつつ松永は見つめ、穏やかな声で魔王の名を呼ぶ。

「公、私は桐一葉に例えられる存在になど、なるつもりは無いよ」

髪を梳く手を信長は掴んで、そんなのは知っていると返した。

「当然のことを今更言うな」

「おや」

「貴様が桐一葉などという言葉に合うはずが無かろう」

予想以上の厳しい評価に、松永の笑みは苦笑いに変わる。

「酷い言われ様だ」

髪を梳く手とは別の手を信長の頬に添わせると、彼の声が一段、小さくなった。

「・・・久秀」

間近に此方を見つめる相手に向かって、松永は凛とした表情で頷いた。

「また会おう。信長公」

 

盛夏に咲き誇っていた花々が萎れ、色が冴えなくなって来た庭を眺めながら、信長は自らの薄い唇に指を添わせる。

誰の前でも決して弱みを見せない男が自分に告げた、暫しの暇という事実に、改めて心の中で向き合っていた。

あの男らしい言葉のぼやかし方に、つまらぬ気を遣う、と笑いそうになりつつも、小さな不安が己の中に生まれて来ている。

ひさひで、と思わず声にならない声が零れ落ちた。

それ以上の言葉は、意地っ張りな彼の心が邪魔をして出てこないけれども、代わりに梟雄の穏やかな声が、信長の内に響く。

―――また会おう。

去り際の相手の温みを思い出した信長は軽く目を瞑って、静かに息を吐いた。

疾く、戻れ

庭先の草木達に向かって低く告げると、彼は立ち上がり、部下の名を呼ぶ。

部下達の慌ただしい足音は、信長の忙しない動きが再開された音でもあった。

 

その頃、ゆったりと帰路に付いていた松永は、馬上でふと小さく笑い、信長宅の方を振り返る。

「承知した」

呟くような言葉は彼の従者にも聞こえないほどの大きさだったが、梟雄はひとり満足げな様子で、高くなってきた青空を見上げていた。

 

 

 

(終わり)

 

 

戦国BASARAの松永久秀の声を演じられている藤原啓治さんが暫く休養されるとのニュースを知りまして、私なりの、その、応援と言いますか。ウチのブログの信長様も、久秀がそういう話になったら、こんな気持ちで待ってくれるかなと思って書いていました。

一説では久秀を甘やかしていた説もあったそうなので。その説はとても燃える・・・!

桐一葉、という言葉は、秋を表す季語でもあり、栄枯盛衰を暗に言う言葉でもあるそうです。

自分を皮肉りながらも、決して折れない松永久秀が此処におります。

藤原さんの快復と復帰を願っております。でも焦らず、急がず・・・!とも願っております。

急いだって良い事無いですから、と元病人が言ってみる、偉そうに。