こんにちは。

新鬼武者話の続きとなります。
原作とは設定がだいぶん違う、蒼鬼と天海ですね、書いてる本人だけが楽しい。
予想していた以上に長くなっております・・・ 今回は中盤、という位置づけですね。

久し振りに新鬼武者のドラマCDを聞いてみたら、未熟な蒼鬼に対して心配しまくる過保護な天海を聞けたので、自分の妄想はそれなりに間違っちゃいないと再確認しました。 
ワインに飲まれて絡み酒してる天海とかね、公式でも愛されてる紅い鬼さんです。

長いお話となっております、お暇潰しにでもなりましたら幸いです。

 

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Promises promises


2.

己を包んでいた光が消えると、先程の白一色の世界とは真逆の墨黒に塗りつぶされた空間に立っていた。

またしても道案内を失った天海は暫く進む方向を探しあぐねていたが、ふと思い立って懐へ手を入れる。

ちりん、と小さいながらも涼やかな音が彼の手元から鳴った。

それは、あの若者と別れる際に半分を相手が持っていった、鬼面の半割れ。

少し時間を置き、目を閉じてもう一度、天海は面に付いている鈴を鳴らす。

しん、と静まっていた黒い空間の片隅からやや間を置いて、微かな身じろぎの音が天海の耳に届いた。

そちらの方向へ浄化師は目を開き、迷いのない動作で歩み出す。

「秀康」

凛、と天海の声が漆黒の空間中に響き渡った。

「起きろ、結城秀康」

真っ暗な先で、誰かが訝しげな声で呟く。

「・・・・・空耳か・・・?」

どことなくぼんやりとしたその声の主へ向かって、喝を入れる調子で天海は声を張った。

「寝ぼけている場合か!起きろ、目を開け!!」

「うわっ!?!」

驚きの声が響いた途端、黒に塗りつぶされていた空間の中より、誰かが淡い光に照らし出されたように浮かび上がる。

天海の目の前に、今度こそ探していた本人がいた。

相手は急な事に驚き、目を丸くして立ちすくんでいる

「え、あれ・・・・・??」

まだ、夢を見ているのかと蒼鬼は己を疑った。

ここに居るはずの無い人が、眼前で難しい顔をしているなどあり得ない、と。

自分を凝視して言葉を失い、固まっている若者を眺めていた天海が、ふうと息をついた。

「そろそろ話をしても良いか?」

その問い掛けにやっと動けるようになった蒼鬼は髪をくしゃりと掻き上げ、待ったと声を震わせる。

「何で・・・ここに天海が居るんだ」

「何故だろうな、私にもよく分からん。お前はずっとこうして眠っていたのか」

掻き上げた手をそのままに周りをぐるりと見渡して己の存在している場所を再確認すると、軽く首を振った。

「いいや、寝てるとか起きてるって感覚すら殆ど無かったんだ。誰かとこうして話すことも無い場所だからな」

腰に手を当てて伸びるような仕草をした蒼鬼は、それにと続ける。

「ここは静か過ぎて落ち着かないから、意識を薄めていたってところが本当だよ」

「・・・そうか」

軽く眉間に皺を寄せた天海に気付かず、蒼鬼は残念そうに溜息を落とした。

「だけどこんな風に逢うなんてなぁ・・・次に逢う時は、劇的な涙の再会になると思っていたのに」

「お前が寝ぼけていなければ、そうなっていたかも知れぬ」

相手の話し方がどことなく不機嫌そうに聞こえて、理由の分からない若者は首を傾げる。

「・・・天海・・・さっきから怒ってないか・・・?」

「怒っていない」

「いやあの、眉間の皺が更に深くなったけど」

「もし私が怒っている様にみえるのならば、お前に対してでは無い」

右手に持っていた半割れの鬼面を見つめた。

「秀康、あれからどれくらい経ったか分かるか?」

ちょっと目を泳がせてから、蒼鬼は申し訳なさそうに笑って肩を竦める。

「・・・悪い、ここは時間の感覚が無くてさ、数えた事なんてないんだ」

静かに告げられた残酷な時の過ごし方に、天海の胸に痛みが走る。

「三年だ」

天海の視線の先を追った蒼鬼が、あ、と小さく声を上げた。

大切に持っていた半割れの鬼面は、年月を重ねた奥深い朱色に変わって持ち主の手中にある。

「三年も、お前を見つける事をしなかった」

若者の大切な時を無にさせてしまった己に、今更ながら腹が立っていた。

「どこかで、私は諦めていたのだ。自ら探せる事は出来ないだろうと、秀康自身が自力で戻ってくるしか方法はないだろうと今まで勝手に思い込んで・・・」

見付けられなかったのではなく、見つける努力をしなかった己を、天海は告白する。

フォーティンブラスを独りで抑え込んでくれている蒼鬼の現在へ想いを馳せる事は、天海にとって苦しい事実でしかなかった。

その苦しさや申し訳なさに歩む足を捕らわれない為、彼は幻魔の残党狩りに精を出すことで生きる目的を見出していたのである。

「幻魔狩りをしていた間に、私はもっとお前に出来る事があった筈なのに」

「天海」

「・・・・・すまない」

俯く天海の肩に、蒼鬼の手が触れた。

「久しぶりに逢ったのに、そんな顔するなよ。いいか天海、もし今より早く俺と逢えていたって何も変わらなかったんだ。俺の居場所はここで、こうして天海が来てくれても、結局俺は帰って行くアンタを見送るだけなんだから」

穏やかに悟ったふうに話す蒼鬼の手を、顔を上げた天海が掴み、語気を強める。

「馬鹿を言うな。お前と共に帰る為に、私は来ている」

掴まれた手を持ち上げ、蒼鬼は苦笑いを浮かべた。

「おいおい無茶言うなよ・・・俺が動いたら、あれだけ皆で苦労して倒したフォーティンブラスが大喜びで出てきちまうぞ?」

力強さの戻った目つきで蒼鬼の足元を一瞥し、ふんと天海は鼻を鳴らす。

「生身の鬼武者に三年間も抑え付けられていたのだ、あやつもだいぶ力を削がれているだろう」

幻魔関係の話になると更に容赦の無い言い方へ変わる年上の浄化師を、変わらないなと蒼鬼は笑いつつ肩を竦めた。

「だろう、って・・・そんな予測的な話じゃ、簡単に腰は上げられないぜ」

「今までの経験と知識からの話だ、適当な理由づけではない」

「天海がそう言っても、此処をカラッポにして出ていける程、俺は無責任になれない」

杭としての役目を全うする気でいる蒼鬼の声は、揺らぎの無い響きを持っている。

だが、天海も明確な強さを持った声で否と返した。

「此方も簡単にお前を置いて帰る訳にはいかん」

一歩も引かない相手に、蒼鬼は片眉を上げて小さな苛立ちを表す。

「なんでだよ。俺が帰りたい、なんて今までに言ったか?」

長い白髪を揺らし、天海は向かい合う形になって蒼鬼を厳しい目付きで見上げた。

「夜な夜な鬼面を取り出し、独り泣きをしている男を放っておけと?」

はっと、蒼鬼の表情に小さな狼狽が見て取れた。

天海は言葉を続ける。

「なぜ、私がここに入れたのか分かるか?地上での封印が一部弱まっていて、此処への入り口が開いていたからだ。しかし異界の出入り口のはずなのに幻魔は出てこなかった。そこからは幻魔では無く、音だけが漏れ出ていてな・・・泣き声と、鈴の音が」

「それは、俺じゃ」

言葉を濁らせた蒼鬼をじっと見つめ、強く首を振る天海。

「いや、お前しかいない。泣き声だけならば私でも分からなかっただろう。だが、鈴の音を聞いた時に確信したのだ、秀康が此処に居ると。あの時の約束の通りに」

軽く鈴を鳴らして見せてから、天海は切なげな笑みを浮かべる。

「お前が帰ってきた時を聞き逃さないようにと、この音だけは常に憶えていたからな、違うとは言わせん」

俯き頭を掻いていた蒼鬼が、開いた片手を腰に当てて宙を見上げた。

漆黒に塗りつぶされている空間へ暫く目を遣ってから、懐に手を入れて何かを取り出す。

「・・・時を数えた事がないなんて、嘘だよ」

なにか決めた様な声を出す彼の手には、もう半分の鬼面が握られていた。

「むしろ、ずっと数える努力をしてた」

黙って見つめる天海の前で、鬼面の目元辺りを指でそっとなぞりながら目を細める。

「ここで時間の感覚を無くしたら、俺自身が居なくなっちまいそうな気がした。どうせ此処から離れないと決めているのなら、それで良かったのにな・・・」

「秀康、それは」

言いかけた天海の顔へ目を遣り、蒼鬼は困ったように微笑んだ。

「でも、そう思う時に限って、この鈴が勝手に鳴るんだ。まるで結城秀康を手放すな、と誰かさんが叱るようにさ」

己の目の高さに鬼面を持ち上げ、小さく息をつく。

そんな蒼鬼の動きに合わせて、鈴の清らかな音が響いた。

「白状するよ。俺が泣いていたのは、情けなかったから。アンタを遠くから見守る、なんて格好つけたくせに、俺の本当は天海が心の中に居てくれなきゃ、自分自身すら保てない弱い奴なんだって、この面から気付かされて」

格好悪いよな、とこちらに向けて照れ隠しの笑い顔を作る蒼鬼を、天海は真面目な表情で受け止め、首を振る。

「三年と言う年月、独りきりの環境で自我を保って来ることができたお前を、誰が笑おうか」

天海の言葉に、蒼鬼の顔から笑みが消えた。

浄化師は暫く相手の目を見つめてから、再度口を開く。

「秀康。人が、己と言う存在を認識して生きていられるのはどうしてだと思う?」

「・・・さあ・・・?」

咄嗟に答えの出ないような問いに蒼鬼が戸惑いがちに首を傾げると、天海は頷いて彼の持っている鬼面へそっと手を伸ばした。

「他人との関わりがあるからだ。こちらの存在を他人が認め、他人をこちらが認める関係があるからこそ、己が確立され継続し、また変化してゆける。秀康、お前は・・・」

く、と天海が言葉を止めて小さく息を詰める。

そして両手を大きく広げて蒼鬼の頭をかかえるように抱き締め、漸く絞り出すような声を出した。

「・・・よく、頑張った」

孤独というものの辛さをよく知っている天海が相手に伝えられる言葉などこれ以上、持ち合わせてはいない。

彼はただ静かに、蒼鬼を抱き締める腕へ力を籠めた。

懐かしい温もりと短い労いの言葉は、独りで踏ん張っていた若者の心を、優しく叩く。

紅色の僧衣の肩口に涙が一滴、また一滴と沁み込む。

天海が何も言わないまま、蒼鬼の顔を隠してやるように頭を己の肩口へ押し付ければ、垂れ下がったままだった相手の腕が彼の身体を抱き締め、やがて小さな嗚咽が漏れ始めた。

今まで溜め込んでいた感情を吐き出すようなその泣き声を、天海は目を瞑って受け止める。

子供の様にしゃくりあげるまで思い切り泣いて、涙も気持ちも落ち着いた頃、天海を抱き締める相手の腕の力が緩んだ。

それに合わせるように天海も力を抜くと、肩口から顔を上げた蒼鬼が、泣きはらした顔で照れくさそうに微笑する。

「ありがと・・・」

懐から手拭いを出して涙の跡を拭ってやりながら、天海は穏やかに首を振って見せた。

「礼などいらぬ。落ち着いたか?」

うん、と素直に頷いた蒼鬼を見て、天海は安心したように小さく笑うと、相手の髪をくしゃりと撫でる。

「そこで休んでいるといい。此処からは私の役目を果たそう」

手拭いを渡された蒼鬼が首を傾げた。

「天海の役目?此処で??」

足元に置いてあった錫杖を拾い上げる天海。

「ああ。お前にも後で少し手伝ってもらうかも知れんがな」

そう言うと蒼鬼に背を向け、周囲の暗闇をすいと見渡して、天海はしゃん、と錫杖を鳴らした。

 

(続く)