一か月ぶりになりました、お久しぶりです!
六月にはあれだけ豪語したくせに、全然更新できずに申し訳も無く(大反省)
あんまり予定、予定と言わない事にします・・・

さて、お久しぶりの作文ですが、なんだかどうして新鬼武者を書いています。 
完全に設定外のお話になっていますし、「新鬼武者」自体が何だ?と言われかねない今なのですけれど、私が大好きなゲームで離れられないのですよね。天海と連続一閃をひたすら愛するゲーム。
今回はゲームのエンディング後の創作話です、えらい長い作文となっております。
蒼鬼×天海な関係で書いておりますので、色々大丈夫な方のお暇潰しにでもなれば・・・
2回か3回に分けてゆっくりあげて行きます。
本編は続きボタン以降より。


 
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Promises promises <新鬼武者・蒼鬼と天海>

 

 

去って行った者の後を追いかける、などという青臭いことをする歳でも無い筈だった。

フォーティンブラスとの死闘を終えた若者がまばゆい光の中で自分へ笑いかけ、申し訳なさそうな表情で静かに語りかける。

「ごめん、天海。アンタと約束してたこと・・・守れなくなっちまった」

「秀康、待て。私が」

天海が身を乗り出し言いかけた言葉を、僅かな身振りで遮った蒼鬼はゆるりと首を振ってみせた。

「だめだ。これは俺じゃなきゃ出来ないんだよ・・・それはアンタが一番よく分かっているはずだろ?」

長らく黒き鬼を探し求めていた天海ならば分かるだろうと秀康は言う、白き悪魔を抑えられる役目が、紅き鬼ではないことを。

目の前に突き付けられた現実に、天海は唇を咬む。

「・・・お前にはまだ見るべき世界がある、蓄えるべき知識がある。だが私は・・・長く生き過ぎたのだ、この生は、この時の為に残され繋がれて来たのだと思っている。秀康、お前はそちらへ行くな、私が行く」

「嫌だね」

天海に向かって腕組みをして悪戯気な笑みを零した秀康は、はっきりとした拒否の言葉を告げた。

「アンタに任せられる訳がないだろ?これはオレの役目なんだってば」

小首を傾げて天海へ言い含めるような語りかけをする若者に、反論する材料を失った浄化師は眉間に眉を寄せて小さく唸るしか出来ない。

そんな相手へ穏やかな目を向けつつ、秀康は言葉を続けた。

「それに、天海はこっちでやらなきゃいけない事がまだまだ山ほどあるんだぜ?オレの代わりにその後始末を頼むよ。面倒事ばっかり残っちまってると思うからさ、それを片せるのは天海だけなんだ」

他の奴らじゃ、できない事だからと若者は続けて、軽く手を上げる。

「ずっとこうやって話していたいけど、もう行かないと駄目っぽいわ。・・・じゃあな」

「秀康・・・っ」

背を向けようとした蒼鬼へ追い縋ろうとした時、手元でちりん、と澄んだ音色が響いた。

音の鳴った方へ天海が目を向けると、何時の間に手にしていたのか、秀康と初めて出会った時に着けていた紅鬼の面がふたつに割れた状態で在る。

その仮面の角に付けられている小鈴が鳴ったようだった。

己の手元を凝視した天海につられる様に紅鬼の面へ目を遣った秀康が、嗚呼と呟いて微笑む。

「懐かしいな、それ」

「・・・何時の間に・・・?」

驚いたように面を見つめる天海へ、蒼鬼がゆっくりと歩み寄った。

「オレが割った時のまんまか・・・なぁ、折角だから半分くれよ」

そう言うと、若者はひょいと面の片割れを手にして、角の部分に括り付けられた小鈴をちりん、と鳴らす。

「綺麗な音だな。もし、もしかしてだけど・・・オレが帰ってこられた時にはこの鈴を鳴らすことにするよ。だから天海、泣かないでくれ」

秀康の言葉で、自分の頬に涙が伝っていることに天海は漸く気付いた。

「これは・・・泣く、つもりはなかったのだが・・・」

自らの掌で涙を拭おうとした天海の動きを遮り、秀康が親指の腹で優しく滴の跡を拭い取る。

「ありがとうな・・・それと、ごめん。身体は天海と一緒に居られなくなるけれど、心はいつもアンタの傍に居るから、それだけは絶対に守る。・・・あ、そうだ。浮気するなよ?」

「・・・っ!?するわけがなかろう!!」

驚き若者の胸板を小突いて軽く睨むと、相手は照れくさそうに笑って頭を掻いた。

「冗談だって・・・それじゃ、行くわ。元気でな、天海」

秀康の決心が変わらない事を知った天海は、少し言葉を探した後で小さく頷く。

「・・・此方の事は任せろ」

天海の言葉に手を上げて応えながら、秀康は背を向けた。

そうして、激闘を制した黒き鬼、結城秀康は光の中へ消えて行ったのである。

 

幻魔に冒された豊臣政権が崩壊して後、関ヶ原を制した徳川家康が日ノ本を治めて数年が経った。

その間に遠い祖国へ旅立っていった仲間、決まっていた縁組先へ嫁いでいった仲間、一族から受け継がれた鬼の眼の力と共に仇を探す旅へ出た仲間と、戦いの後はそれぞれにやるべき事を見出して人生を歩んでいる。

そのうちの一人、浄化師でありかつての紅き鬼武者であった天海もまた、封印すべき鬼の小手を携えて日ノ本各地を廻る旅を続けていた。

その傍らには、古くからの戦友である阿倫の姿もある。

「左馬介、この辺りは幻魔の気配が随分と弱くなったね。以前なんてこの峠は幻魔退治できる人と一緒じゃなきゃ歩けない程だったのに」

「ああ。これくらいならば里の者達も昼間は安心して歩けるようになってきただろう」

山間部の里から里へ繋がる峠道を歩きながら、天海は阿倫の言葉に頷いた。

あの大戦の後、日ノ本に蔓延っていた幻魔の数は瞬く間に減少して行き、全国を幻魔退治しながら旅をする天海達にも、その変化は肌身に感じている。

「だけど完全に幻魔が居なくなった訳では無いもんね・・・ほんと、あいつらってしつこいんだから」

「あれだけの数の幻魔が居たのだ、直ぐには滅せまい。それに、その為の我らだろう?」

「そうだけど・・・左馬介ったら蒼鬼に随分なお願いされちゃって、それをまた律儀に守ってさ。真面目も真面目、馬鹿真面目だよねぇ」

少女の軽口に苦笑いしながら、天海は額の汗を拭った。

「蒼鬼に頼まれずとも、この後始末はやらねばならないと思っていた。阿児はこの旅が嫌ならば、比叡へ留まっていて良かったのだぞ」

浄化師の言葉に、阿倫の頬が膨れる。

「旅が嫌だとか、そう言う事じゃないの!ただ、旅をしていると時々・・・あの子の事を思い出すんだ」

少年のような屈託のない笑顔と人懐っこさで周りを明るくしてくれていた若者だけが帰って来なかったと阿倫が知ったのは、天海が戻って来てからだった。

全てが終わり、阿倫の元へ帰ってきた天海は、彼らしくない、どことなく気が抜けたふうな様子で阿倫へ向かって口を開く。

―――蒼鬼が、すべて終わらせてくれた。

言葉少なに告げられたその一言には深く悔いの含まれた響きが混じっていて、長年彼と共に苦楽を分かち合ってきた阿倫はその心中を察するあまり慰める事も悲しむ事も出来ずに、ただ頷くしかできなかった。

あの時の天海から比べれば彼は随分と平常心を取り戻してきていると感じるけれど、今でも時々ふと訪れる僅かな時間の空白に、天海が瞬間的に見せる寂しげな眼の色を阿倫は知っているから切なくなるのだ。

天海本人から直接その哀しみを聞く事はないままだが、それでも阿倫には分かる。

半分しかない紅鬼の面を彼が大切に持っている事の意味を。

「お前に思い出してもらう事は、アイツにとっても幸せであろう」

「・・・そうかな・・・」

先程より元気の無くなった阿倫へ、天海が穏やかに話しかける。

「どうした阿児?腹でも減ったのか」

そんな見当違いな言葉は彼なりの優しさだと理解しつつ、阿倫は敢えて心外そうな声を上げた。

「あのねぇ・・・あたいの関心事が食べ物だけみたいな言い方しないでよ!」

「ふふ、それは悪かった。もう少し歩けば茶屋があったはずだ、そこで一休みして行こう」

叱られている立場なのに天海は小さく笑って、錫杖を握りなおす。

阿倫もそんな彼の様子を見て、への字口から明るい表情に変わった。

「うん。じゃあお団子が食べたいな!」

「やはり食い気か」

「う、うるさい!!」

付き合いの長さから生じる調子の良いやり取りの僅かな隙間に、天海は自然のものとは違う音が微かに聞こえた気がして素早く辺りへ目を配る。

一瞬気を尖らせた天海に気付いた阿倫が声を潜めた。

「左馬介・・・?」

被っている笠を軽く上げ周囲を伺った天海は、通常の気配へ落ちつかせて首を振る。

「・・・いや何でも無い。空耳のようだ」

行こうと天海に促された阿倫は、その一瞬の不思議など直ぐに忘れて、うんと元気に頷いた。

天海の言った通り、峠道がなだらかになった頃に小さな茶屋が店先で古ぼけた幟を僅かに揺らしている。

店には他に商人風な男が二人ほど居て、茶を片手に一休みしていた。

天海と阿倫が茶と団子を頼みながら腰掛けに座ろうとすると、隣の客が小さく頭を下げる。

「暑うございますな」

声を掛けられた天海も、嗚呼と穏やかに言葉を返した。

「もうすっかり夏ですな」

それだけ言って、運ばれて来た茶に手を伸ばす天海の仕草を話しかけた旅人がそれとなく眺めながら、気後れしたふうな声を出す。

「あの、・・・御坊様も魔物の噂を聞かれてこちらへ?」

口元に運びかけた手を止め、天海が軽く眉間に皺を寄せた。

「・・・噂?幻魔が出たと??」

奥から団子を運んできた茶店の主人が、天海の問いに首を振って違うと言う。

「この人が言っているのはそういった類ではございませんよ」

横から口を出してきた主人へ、旅人が顔を向けて手招きをした。

「俺は噂しか知らないから亭主、あの話をこの御坊様に教えて差し上げたらどうだい?お前さんの方が良く知っているんだろうし」

「ここで店をしているんだから当たり前だ・・・でもヒトに悪さをする類のモノでは無さそうだから、放っておいても害は無さそうなのだけどねぇ」

歯切れの悪い主人の言葉に、団子を手に取った阿倫がまあまあと明るい声を出す。

「退治するとかしないとかは別の話としてさ、取り敢えずその噂のことをあたい達に教えてよ、お爺ちゃん!」

茶碗を手にしたまま、天海も阿倫の言葉に頷いて主人を見つめた。

「ご亭主、私からも頼む。その話、詳しく聞かせて貰えないだろうか。助けになれるやも知れぬ」

盆の縁を両手で握り締める様に持って佇む主人は暫く迷っているような様子だったが、意を決したらしくこっくりと頷き、天海と阿倫に向け、ゆっくりと語り出した。

 

泣き鬼が居るんでさぁ。

日がほとんど落ち、闇がじわじわと迫ってくる頃、天海は茶屋の主人の話を思い返している。

夕暮れ時から夜にかけて、時折山の中から声が聞こえるのだという。

ヒトの声では決してない、と主人は言い切った。

『酷い時は山の中を響き渡るほどの大きな声だ、人が出せる声じゃあない』

でも、と彼は続ける。

その声は、とても哀しそうな響きを持っているらしい。

迷い子が大人に助けを求めるような、切なく哀しい、まさに泣き声なのだと。

「その声が聞こえるようになっても、旅人が何かに襲われたという話は無いようだが・・・」

天海の言葉を受け、隣に居る阿倫が頷く。

「でも、幻魔の中には人間の同情を利用して襲う奴もいるもんね、あたい達で確認はしておかないと」

「そうだな、害は無かったとしても、皆にとっては気味が悪かろう」

店じまいされた茶屋から少し森の中に入って、段々と暗くなって行く周囲の様子を静かに観察していた二人の耳に、自然の音とは異なる響きが微かに聞こえた。

「阿児」

錫杖を握り直した天海の呼びかけに阿倫は素早く印を結び、意識を集中させる。

「聞こえた。声までの道標をつけていくから、左馬介は先に行って」

阿倫が印を結んだ指先を揺らし、其処へふうと息を吹きかけると、天海の視界の右奥がちかりと光った。

その光を合図に、天海は走り出す。

「阿児、気を付けるんだぞ」

印を結んだまま、阿倫がにっこり笑った。

「大丈夫!左馬介こそ転ばないでよ?」

先程光った辺りまで天海が近づくと、またその少し先で光が見える。

阿倫の作る光の道標を辿って、天海は森の中を飛ぶように駆けて行けば、例の声も徐々に大きく聞こえて来るようになってきた。

茶屋の主人の言う通り、嗚咽にも似た、低く這うような声である。

幻魔の出せる声ではないと天海は不可解げに眉根へ皺を寄せながら声の出所に向かって歩を進めていたが、道すがらにあった沢の斜面を登り切ったとき、思わず足が止まった。

彼の目の前には、幻魔でもヒトでもなく、妙な空間が存在していたのである。

泣き声は、其処から発せられていた。

周囲の草木が奇妙に歪んだ中央に、すぱりと刀で切り開かれたようなヒト一人分ほどの大きさに開いた空間が、そこにはある。

声の主が予想外の形となっている事に一瞬躊躇した天海だったが、異界の隙間から微かに聞こえた音に気付き、目を見開いた。

「左馬介!」

相棒から少し遅れて目的地に到着した阿倫は、奇妙に開いている異界への入口と、姿の見えない天海に身体を強張らせた。

そして、事前の用意も無く独りで敵地へ飛び込んで行くことなどしない相棒の予想外な行動に気が動転する。

慌ててその入口へ彼女も近づいたが、異界の特殊な空気を感じ取って途中で足を止めざるをえなかった。

「こんな所で鬼の力、だっていうのかい・・・?」

入口の向こうは、鬼の一族の力を受け継いだ者だけが侵入できる空間のようである。

この選ばれた者しか入る事の叶わぬ空間へ行ってしまったらしい相棒を、阿倫はただ入口で待つしか、今は出来なかった。

 

引き寄せられる様に入り込んだ異空間は、天地も解らぬ白一色の、何もない空間が広がるばかりの場所だった。

先程とは違い、あの大きな泣き声が全く聞こえなくなっている。

勢いのまま入り込んでしまった天海は、探し物も、それを辿る道すらも見つけられず呆然と立ち尽くした。

鬼一族の気配に似た空気をもつこの場所へ、危険も考えずに独り飛び込んだ己にその時漸く気付き、小手を着けた手を強く握りしめたその時。

「御坊、このような所へ参られてはいけない」

落ち着いた声が、天海の背後から響いた。

敵か味方か分からないその声に、浄化師は直ぐに振り向くことをせずにそのままの姿勢で返答する。

「勝手に入り込んでしまって申し訳ない。少し、探し物をしていましてな」

「此処には貴方の探すものは無いかと思われる。何もない、無の空間ゆえ。何処から入って来られた?」

敵意や悪意を含まない相手の返しに、天海がゆっくりと振り返りその姿を認めた時、彼の息が詰まった。

蒼い鎧を身にまとい、亜麻色の髪の上へ鬼の角を模した額当てを付けた、懐かしい人物がそこに居る。

声が、直ぐに出てこなかった。

「・・・・・秀康・・・!?」

長い絶句の後に呼びかけられた当人は、何故か不思議そうに自身の姿を見回している。

「ヒデヤスとはいかなる者であろうか。私は黒き鬼の一族、名は・・・確か幸壓(ゆきあつ)と謂った」

姿は蒼鬼その人だが、言葉遣いも此方へ向ける視線も初見の人間に向けるそれに、天海は戸惑った声を出した。

「秀康では無いと・・・ならばその姿は一体」

浄化師の狼狽の意味に気付いた蒼鬼の姿をした相手が、己を指差して淡々と説明を始める。

「私の実態とは靄の如く朧げなもの。いま御坊の目に映るは、私の気配と似た貴方の知る人物に重なり見えているのではあるまいか」

「似た気配、とは」

「黒き鬼の血を継いだ一族のものを貴方が知っているのならば、御坊の目には私の姿がその者に見えている、それだけだろう」

確かに相手が言うように、姿は天海の知る蒼鬼だが、声が違っていた。

そんな黒き鬼の血筋がこの空間に居ると知った天海は、心に小さな確信を持って幸壓と名乗った相手へ改まった声を出した。

「ならば其方に問いたい。近年その黒き鬼の血を継ぎ、フォーティンブラスを封じた男をご存じないか?」

相手は天海の目を見つめ、小さく頷く。

「自らを白い悪魔の杭とした男ならば知っている」

杭、という言葉を耳にした天海の眉間に、苦しげな皺が寄った。

あの若者に人身御供と同じ事をさせてしまった事実を、この場で改めて突きつけられる。

「・・・彼はまだ、存在しているだろうか」

天海の様々な感情が混じった低い問いにも相手は声音を変える事無く、嗚呼と答えた。

「居るとも。時の流れなど此処には無いゆえ」

「逢えるか?」

自分でも驚くほどの早さで言葉が口から零れ落ちる。

黒き鬼の一族は天海の目をじっと見つめ、そして彼が身に付けている小手へ目を落とすと、くるりと背を向けた。

「こちらへ、鬼の小手を託されし御坊よ」

「頼む」

滑るように進み始めた相手の背を追い始めた時、幸壓が前を向いたまま声を上げる。

「ところで、何故ここへ入って来られた?封印が施されている筈だが

おやと天海は首を傾げた。

「封印?山中にて入り口が開いていたぞ。そこから泣き声が漏れ出ていて周りの者達が怖がっているのでな、確かめに来たのだ」

前を進む幸壓の頭が少し揺れる。

「はて、泣き声?」

あれだけの大きな声が相手には聞こえなかったのかと天海は不思議に思いながら、言葉を続けた。

「うむ。それに比叡山以外の地で鬼の気配がしたのが気になったのもあってな」

「もちろん比叡の力は借りている。だが地下に封しているモノではないゆえ、時折このように揺れ動いてしまっているのだ」

そこまで語ると、蒼鬼の姿をした幸壓は天海の方をちらと振り返って鼻を鳴らす。

「その小手といい鬼一族を知る姿勢といい・・・一族と随分縁の深い御仁のようだが」

相手の試すような口ぶりに、天海は長い白髪を揺らして片眉を上げて見せた。

「いやなに、鬼一族の小間使いのようなものでしかないさ」

淡々とした口調で語っていた幸壓が、ふうんと初めて小さな興味を示すような声を上げると、ぴたりとその場に止まって向き直る。

「面白き御坊よ、後で名を聞かせて貰えようか?まずは先に逢って来られい」

「かたじけない。で、秀康は」

「そのまま動かず・・・さあ」

幸壓がぽん、と手を叩いた瞬間、天海の目の前が光に包まれた。

杭となった男の元へ紅き鬼を送った幸壓の身体は蒼鬼の姿から握りこぶし大の紫魂と変わっている。

「ヒデヤス、というのか。あの男」

本来の形へ戻った鬼一族の一人はそう呟くと、色が薄まるようにしてゆっくり姿を消した。



(続く)