こんにちは!
連休前に一本書けたら良いな、とぱちぱちやっていたら、なんだか自由な(好き勝手な)作文が出来ました・・・
堺の街をネタにしたお話です。
史実はかじった程度の知識なので色々と完全創作です、すみません。
ライトな久秀になりました、信長さまは可愛い感じになっています・・・
なんだか長くなってしまったので、2回に分けてあげて行きます、お時間ありましたらお暇潰しにどうぞ~

 
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ベリー・ベリー・ストロング

 

 

多忙な合間を縫って作る気晴らしの方法は決まっている。

ようやく通い慣れてきた道を目的地まで早足に向かっている途中、向こうから見慣れた背格好の男が笠を被った姿で歩いてきた。

向こうも此方の姿を見つけたようで、歩み寄りながら笠に手を添え小首を傾げた様子が目に映る。

お互いの距離が近付いた時、向こうから声を掛けられた。

「数日前に拝見した顔のようだが、私の気のせいだろうか」

この男らしい皮肉に、客人になる筈だった織田信長はにやりと笑う。

「憶えていたのは褒めてやろう。出かけるのか?」

うん、と軽く返事をして、松永久秀は信長の歩いてきた道の先へ目を遣った。

「少し、街を見て回ろうと思ってね」

「買い物か」

「大した目的は無いよ。偶には堺の町衆のさざめきを聞きに行くのも悪くないと思っただけで」

ふうん、と己の言葉を聞いて意外そうな顔をしている信長へ、松永が穏やかに笑みかける。

「卿はどうしたのかな?私に急ぎの用でも?」

「急ぎの用では無いが・・・」

何となく顔を見に来た、という本心を隠そうと言葉を濁した信長の様子に、相手が小さく呆れたような溜息をついた。

「嗚呼、全て言わなくても大体解ったよ。相変わらず供も付けずに不用心なことを」

松永と顔を合わせるたびに言われる台詞をまた耳にして、信長はムッと口を尖らせる。

「貴様こそ」

「大阪は私の良く知っている土地だから良いのだ。卿にはまだ不案内な所が多い地だろう?臣下達も慌てているだろうに」

困った事だと片眉を上げて腕組みをした松永を見て、保護者かと信長は言い返した。

「あやつらも大阪は慣れていない。それに、お前の所に行くと告げた時に素直にいってらっしゃいませと言う奴らだと思うか?」

「それでこっそり此方に来てもらっても、卿と私が叱られるのは同じであろう」

梟雄がこめかみに指を当ててやれやれと首を振る。

相手のその台詞を待っていたかのように、信長が悪戯気な笑みを零して胸を張った。

「あやつらが俺に説教する暇など無いわ。今頃減らぬ仕事に捉まって大騒ぎしている最中よ」

してやったりと笑う信長の得意げな様子を、苦笑交じりに眺める松永。

「まあ、相手にそれだけ遣らせる卿のことだ、自身の遣るべき仕事は片付けて来ているのだろう。ならば退屈しのぎに堺の街を案内して差し上げようか」

返事など待たずに松永は街へ向かって歩き出し、信長もそれに倣って彼の横に並ぶ。

「卿は宗久殿から様々な品を見せて貰っているだろうから今回は特別な案内はしないが、宜しいかね?」

「構わん。久秀が行く所へ俺がついて行くだけでいい」

己の前では殆ど私(わたくし)を出さない松永久秀の、私的に近い散策に付いて回れるというだけで信長にとっては特別であり、心が躍っている。

そんな嬉しげな相手を横目でちらりと見遣って、思い出したような声をあげた。

「嗚呼、ひとつ卿には伝えておこう。今日は名を出さない方がいいよ」

意外な提案に、信長は松永の顔を見上げて眉根に軽く皺を寄せる。

「信長の名を?何故だ」

「今の卿は堺の商人たちから酷く厭われているからね。理由は言わずとも分かるだろう」

目線を松永からちょっと外し、何かを思い出した信長がそっけない声を出した。

「・・・ああ、金か」

「商人にとって金子は命と同等か、それ以上のモノだ。堺の今はそれを巻き上げた卿に対する恨みごとばかりだからね、適当な名前で誤魔化してくれたまえ。命にかかわるやも知れないから」

しれっと聞きづてならない言葉を吐いた案内人の横顔を睨みつける。

「おい、そんな所へ俺を連れて行くのか、貴様。先程まで供をつけないのは物騒だと説教面していた癖に」

「それとこれとは別の話だよ。その危険を冒してでも彼らの声を耳にする価値があると思ってね」

あとは、と梟雄が客人の目を真っ直ぐ見つめて言葉を続けた。

「私が居れば大丈夫だろうと判断したのだ。賑やかさに気を取られて、私の傍を離れないでくれたまえ」

「・・・うむ」

目の前の男は、信長が堺の支配権を握る前にそこで代官役を務めていた人物である。

その男がこれだけ言うのであるから間違いはないのであろう、と思いつつ、己の取った言動で、堺の街がこれだけの騒ぎになっていたと知らなかった信長は軽い衝撃を受けていた。

武士ならば領地を、それが出来ぬ商人ならば金を引き換えに、という彼にとっては単純な話であったのだが、商人たちにとっては簡単な話とはならなかったのである。

賑わいを見せる堺の街に入ったのがまだ片手に数えるくらいでしかない信長の目の前に、目新しい物ばかりが溢れている世界が広がっていた。

そんな街並み、すれ違うのもやっとというくらいの人の賑わいに加えて驚いたのは、己と並び歩く松永久秀に対する商人たちの反応だ。

随分な数の商人たちが久秀の姿を見つけるや否や松永様、と呼びかけて丁寧な挨拶をしてくる。

松永も穏やかな声音で挨拶をする商人の名を呼び、二言三言言葉を交わすのだ。

「みな、顔見知りか」

挨拶の隙間を縫って小声で問い掛けた信長へ、松永が彼の顔にそっと顔を近付けて囁く。

「堺は商人たちで作られている街だ。ゆえに仕事をしていると自然と知り合いが増えてね」

「忙しいことだな」

賑やかな堺の街中で独り、置いてけぼりな声を出す信長に、松永は優しく笑いかけ肩を竦めて見せた。

「良いのも悪いのも一緒くたではあるけれども」

悪くはない、と言いかけた松永の眼が、信長を通り越した向こうで固まる。

口元は笑んでいるが、何かに気付いた様子の相手に、信長が何事かと振り返ろうとしたとき、梟雄の低音が否と制した。

「振り向いてはいけない、そのままで」

そして自らの長身で信長の姿を隠すように彼を店の並び側へ導き、自らは道路側に立って、店先で人々の流れと店構えをゆったり眺める侍二人として気配を潜める。

笠で目元を隠した姿で群衆を眺めるふりをしながら、松永がどうしたものかと呟いた。

「卿に笠を被らせるべきであったな」

傍らの店の商品を見る振りをしている信長が誰だ、と尋ねる。

「尾張殿には都合が悪い御仁だよ」

短くそう返すと、相手は素早く周りを見遣り、無表情で信長へ声を掛けた。

「小路を行こう。付いてきたまえ」

「わかっ・・・!?」

返事をするまえに、素早く手を取られて店脇の小路に引っ張り込まれる。

松永と信長が佇んでいた大通りでは見世物の一団が宣伝の為に練り歩きを初めており、その賑わいに紛れて二人が人少ない小路に入り込んだことなど気に留める者はいなかった。

小路を往く松永の足取りはほとんど駆け足である。

手を引かれ、相手の足の速さにやっとついて行く信長は、初めて入り込んだ迷路のように入り組む小路に驚き、駆けながら周りを見回していた。

「興味深いのであろうが、今はここを抜ける事だけ考えてくれないかね。余所見をしていると足がもつれるよ」

いつの間にか笠を取っていた松永が背中越しに声を掛けてくる。

その松永に握られている手の柔らかさが気になって、信長が口を尖らせた。

「わかったから手を離せ」

「それをしたら確実に迷子になる、今しばらく我慢してくれたまえ」

冗談にならない相手の低音の響きに、信長は更なる抗議の言葉を止めて、松永の手のぬくもりに自分の行く先を預けることにする。

いくつもの角を曲がり、何か所かの木戸を潜り、五回ほど家主に奔りながら声を掛けて庭先を通して貰った先に、松永の目的地があったらしい。

ふう、と息をついて松永はある店の裏口で足を止める。

「久方ぶりで道を忘れそうだったが、憶えているものだ」

やれやれといった言い方をしている松永の顔を、額にじんわりと汗を滲ませている信長が見上げた。

「此処か?」

相手の声に気付いたかのように松永はここでやっと手を離し、申し訳なさそうに笑いかける。

「ああ。街歩きの筈だったのに急かしてしまって申し訳なかった。大丈夫かね?」

先程まで握られていた手と、松永の笑みを交互に見てから、信長は慌ててふんと鼻を鳴らして腕組みをした。

「心配されることなど無いわ」

そんな相手の様子にそうかと男はまた笑い、手拭いで軽く汗を抑えた松永は、店の裏口を開き御免と声を掛ける。

良く通る低音が、店の奥へと響いて行った。

   


(続く)