松永さんと官兵衛さん、完結です。
思ったより長くなってしまったけど、分けずに上げちゃえ。

以下、本題です。





--------------------------------------




遠足に行く、といきなり言われた。

は?と間抜けた声しか出せない。

大谷が松永の所で茶を馳走になって数日後、何も知らずに彼の宅を訪れた三成は唖然とするしかない。

「なんだ、遠足・・・!?」

「ああ、言葉が足りぬな、すまぬ。ヌシと松永久秀とワレで、穴蔵へ遊びに行こう、という相談が出来てな」

「ま、松永だと!?!穴蔵・・・まさか」

聡い男でナニヨリ、と大谷は微笑する。

「そうよ、暗に梟雄を会わせたら如何かと思うて。折角だから三成も行かぬか?」

 

 

今日も元気に怪我もなく・・・と朝の挨拶も済ませ、作業に入ろうとしていると、何処からか爆発の音がした。

「!おいっ、だれだ発破かけた奴は!?」

「まだ責任者達は此処だぜ、官兵衛さん!」

「まさか、暴発か!?」

騒然となって、現場を確認しにいこうとすると、遠くから人足の叫び声が響いてくる。

「うわぁ!?何しにきやがった!!」

「か、かんべえさんーーー!!」

「官兵衛ぇぇぇーーーーーーー!!!!」

明らかに何かが近づいて来る。

「どけ!」

短く叫んで部下たちを下げると、官兵衛は鉄球の鎖を手繰り寄せて構えた。

入り口の辺りに黒い影がさっと躍る。

部下を顧みることなく走ってきた影は、官兵衛の眼前でギラリと刀を抜く。

その刃を鉄球でばちんと弾き返すと、影はさっと後ずさりして、刀を納めた。

「下らん穴掘りに興じていたか?よくよく似合っているな、黒田?」

今にも飛び掛りそうな目付きのまま、口の端だけで笑う三成。

「お前さん、毎回大した用事が無いくせに、一体何しに来てるんだ・・・」

心底呆れた声を出すと、更に目が吊り上る。

「私は貴様などに用事は無い!刑部が来ると行ったので付いて来ただけだ!!」

「げっ・・・刑部!?」

「挨拶も無しか?黒田」

「うわぁっ!!!」

音も無く三成の傍にやってくる大谷。酷く機嫌が悪そうに周囲を見回すと、飽きぬことよ、と低く笑った。

「な、何の用だ!小生は何もしておらんぞ」

「己から言う人間ほど、当てにならぬ。どれ、どんな悪巧みをしていた?暗よ」

三成が刀を構える。

「だーかーらー!!!」

こいつらの深読みは感じが悪い、と舌打ちをしようとして、ふと気付いた。

「・・・おい、さっきの爆発はお前さん達か?」

「それがなんだ」

「何だ、じゃない!勝手にあちこち穴空けられたんじゃ、生き埋めになるだろうが!」

「知るか」

「思い切って埋ればよかろ?」

こいつら。

「用事が無いのなら、帰ってくれ。小生は忙しい」

ぷいとそっぽを向くと、大谷が地の底から這い上がるような声で威圧する。

「ほう・・・ワレらにそのような口を利くか?」

流石に怖い。しぶしぶ大谷達の方へ向き直る。

「・・・だから何なんだよ、用件を言え、用件を!」

くるくる回る玉をひとつ、手に取ると大谷が口を開いた。

「暗よ。梟雄を知っておるか?」

「あぁ?梟雄??」

久しぶりに聞いた渾名だな、と記憶を辿る。

「あれか・・・松永、久秀だったか?」

「ほう、ヌシでも知っておったか」

「でも、とは何だ。小生だってな・・・」

「どんな人物だと思う」

途中で言葉を遮られる。黒田の話など、最後まで聞く気はさらさら無いらしい。

何か、謀られる空気を察して警戒心を顕わにしながら、黒田は適当に答えた。

「会ったこともないから知らんよ」

「馬鹿者。『どんな人物だと思う』と聞いたのだ。感想など求めておらぬワ」

いつか、いつか首だけ出して埋めてやる、と睨みつけると、三成がその三倍の睨みを返してくる。

「・・・ちっ」

「何か言ったか、黒田?」

「いーや、何も!」

「ならば早に答えよ、愚鈍が」

大谷の言葉を無視するかのように、よいしょ、と黒田は鉄球に腰を下ろし、やけっぱち気味に話し始めた。

「さてなあ、小生から見れば、松永某なんて教養があっても役に立てた訳でもなく、戦術が上手かったといっても信長には勝てんし、色好きは天下取りに関係あるもんでもなし、骨董好きと言っても、それを世渡りに利用できんがめつさだし、あれでは伊達に返り討ちにされて当然だろうよ!」

 

「だ、そうだ」

 

「え?」

ぱちん、と指が鳴る音と共に、傍らの壁が吹っ飛んだ。

鉄球と一緒に吹き飛ばされ、しかも着地したときに鉄球の下敷きになる。

「イテッ!なんだ、なにが起こった!?」

「か、かんべえさ・・・」

もがきながら鉄球から脱出すると、大谷と三成が此方に背を向けて肩を震わせている。

「ヒ、ヒヒッ・・・予想以上の出来ではないか、三成よ」

「刑部、こいつの馬鹿は・・・くくっ、いかん、止まらん」

「だから何だよ、これは!!」

 

「公にも勝てず、竜に引っかかれ、物欲にまみれた小さい男ですまなかったね」

 

優雅だが大谷の声より低く、すさまじい怒気を含んだ声が土煙の向こうから響いてきた。

「おい、刑部、おまえ・・・」

冷や汗がつう、と背中を流れる。握り締める手は既に冷たい。

「言うておらなかったか?もう一人、ヌシに客人よ」

しれっと新事実を明かされるが、逃げ場は無い。

「言ってない!そんな言葉は一言も!!刑部!!!」

「黒田、官兵衛殿か。お初にお目に掛かる。松永久秀だ」

「うわ・・・」

現れた男は、上質な二色の戦羽織に黒と消金の鎧を着て、高く髷を結い顎鬚を左右に残した姿。

優雅に笑っているが、空気に色が付きそうなほど物凄い殺気を振りまいている。おかげで部下たちは失神寸前で声も出せない。

「し、小生が黒田官兵衛だ・・・あ、お前さんと刑部は知り合い・・・?」

「よく、茶を一緒にさせて戴いている。で、」

「で?」

「先程の評価について、少々詳しく伺いたいのだが?」

「ヒヒッ 弾正殿、殺すなよ」

「物騒なことを言うな!刑部!!」

「やかましい」

ぴしり、と宝刀の切っ先を目の前に突きつけられた。

「お聞かせ願えるかな?暗の官兵衛どの?」

殺されなくても、散々な目に遭わせられそうな想像しか出来ない。

「・・・こうなったら・・・」

がちんと枷で力いっぱい宝刀を弾く。予想外の重い反撃に、よろめく松永。

「おっと」

体勢を整えて、腕に力を込めた。

「お前さん達を穴蔵から放り出せば終わりだ!!」

「官兵衛!貴様ぁぁぁぁぁ!!!」

激昂した三成にむかって体当たりする。

「元はと言えば三成!おまえのせいだろうがぁ!!」

「! がっ・・・」

「三成!」

細い身体が官兵衛によって弾かれ、壁にぶつかる直前、大谷の玉が三成を受け止めた。

その大谷に向かって、鉄球を放り投げる。

「くらえ!積年の恨みをっ!!」

「! 刑部!!」

姿勢を整える三成の動きより鉄球のほうが速く、大谷に向かってゆく。

防御の玉が無い大谷が一撃をまともにくらえば、生命の危険すらある。

「刑部っ!!!」

「黒田、貴様・・・!」

「忘れられては困る」

「!」

大谷と鉄球の間にさっと入り込み、激しい勢いの鉄球に向かって指を向ける松永。

「いくらお前さんでも、この勢いは弾けまい!?刑部と一緒に出て行け!!」

「私を・・・舐めるのも大概にしたまえ!」

一瞬、松永の周りの空気が膨らんだように見えた。

その時、大谷へ背中越しに松永が静かに伝える。

「眩しくなる、目をつぶって居た方が良い」

はっと気付いた大谷は、輿に手を掛けて呆然としている三成の目を覆った。

 

 

 

「・・・で、卿の言い分をお聞かせ願おうか」

「馬鹿に言い分などいらん。斬れば終わりだ」

大の字に寝た官兵衛を松永が踏みつけ、三成は刀の鞘を押し付けて斬首の姿勢に入っている。

「小生を殺すのか?ま、どこまでもついてない人生だな・・・」

ニヤリと笑って悪びれた様子を見せない官兵衛に、三成の目が吊り上るのをみて、松永がそっと肩に手を添える。

「・・・触るな、貴様も斬られたいか」

「凶王殿、私に任せて貰えまいか?」

「なんだと?」

「三成、弾正に任せてみやれ」

「しかしこいつは!」

振り向くと、大谷は三成に向かって手招きをしている。

「先程の梟雄を見ておろう?ナカナカの業師よ」

大谷を護って貰った事もある。三成はゆっくりと官兵衛から身体を離した。

「邪魔をしてすまないね、直ぐに済ませよう」

にこりと三成たちに笑いかけると、踏みつける足にぐっと力を込めた。

こいつ、人間を踏みつけ慣れているな、と三成は思う。

「これでも私は、執念深い人間でね。卿の有難いご教授を戴きたい」

「だ、だからあれは口が滑って・・・!」

「ほう、滑った、ということは思っていた、という事ではないかね?」

「そう・・・いや違う!刑部がけしかけるから」

「ワレのせいか。これは然り」

「刑部殿のせいだと?これはいけない。卿には責任転嫁、という言葉を教えてやろう」

冷たく冷たく笑って、左手を官兵衛の目の前に差し出す。

「賢い卿には解るな?この香り」

ぎょっとする黒田。

「おい、なんでそんな物騒なモノを!?」

「私はこれが好きでね。何処から着火して差し上げようか、髪か?手か?足か?」

焦りながら、黒田は逃げ道を探している。

その目を追いかけながら、松永は暗く笑った。

「ま、私のコレならば、卿の手枷を焼き切ることも容易いのだが」

ぴたりと黒田の目が止まる。

「な、なななな・・・!?」

「松永、貴様!」

いきりたつ三成を押しとどめる大谷。

「取って差し上げようか?暗殿?」

「本当か?出来るのか!?」

松永は左手の金具をかちり、と鳴らして笑う。

「出来ないことは言わない主義でね」

探るような色で前髪の奥から目を光らせる黒田。

「枷を焼いて・・・それから小生をどう扱うつもりだ?」

「どうもない。卿は部下としては扱いが面倒だ。放逐だろうよ」

言葉に嘘は無さそうである。

黒田は踏まれているにもかかわらず、嬉しそうに笑い出した。

「これは良い!ならば外してくれ、梟雄どの!!」

「承知した」

わくわくと手枷を差し出す黒田。三成と大谷は睨むように様子を眺めている。

松永が優雅に手を振り上げる、と、嗚呼そうだったと言葉を繋いだ。

「手枷は焼けるのだが、手首を焼かない、という事は出来ん」

さあっと黒田の顔が青ざめる。

「!?!待てっ、それじゃあ・・・」

「良かろう?両手を贄にして、その呪縛から逃れられる幸運」

「や、やめろ!良くない、全然良くない!!!」

じたばたと暴れ始めるが、松永の足は一層力が篭っているようでびくともしない。

「承知したではないか、何を今更」

「お前さんも刑部も、後出し過ぎるんだよ!!性悪の程度はどっちもどっちだ!!!」

松永の笑い顔と、大谷の無表情が同時に固まった。

「・・・ほう?」

「・・・・・あ・・・・・」

「だ、そうだ。刑部殿?」

三成が思わず後ずさる。

ふわり、と大谷が黒田の傍へ寄る。

松永は足を退けて黒田を引きずり起こすと、ばちん、と派手な音を立てて逆平手打ちを食らわせ、次いで大谷は拳骨をがつん、と頭に入れる。

「いでででっ!!!」

松永は離さない。ぐいと着物を捻るようにして顔を寄せると、成程と呟いた。

「卿の頭の回転は速いが、足りなさ過ぎるな、色々と」

「暗よ、ひとつ言っておこう。ワレらはなア、誰かと比べられるのが最もキライなのよ」

「覚えたかね?今、覚えないと次は死ぬぞ」

「お、おお覚えた!悪かった!!だから帰ってくれ!!!」

二人の目がぎらりと光る。

「帰れ、と?」

「ふん、客への持て成しも出来ぬか?」

また殴られた。

「な、何故じゃあぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

 

 

玉と平手の制裁がやっと済み、黒田は完全に延びている。

「・・・刑部、弾正。気は済んだか?」

久しぶりに激怒した大谷に腰が引けていた三成が声をかけると、機嫌良さそうに大谷と松永が振り向いた。

「やあ、時間を取ってしまってすまなかったね」

「三成、これで暫くは暗も大人しかろ」

「・・・・・・済んだのならば帰るぞ」

歩き出す三成の後に続きながら、手を摩りつつ松永が笑い出した。

「いやしかし、彼は面白い人物だ。卿らも楽しかろう?」

「楽しいことなどあるか!刑部が生かしておけというからああしてやっているだけで・・・」

「あの抜け所は苛めがいがあるのよ。ま、暇つぶしにはなる」

暇つぶしの割には本気だったではないか、とちらりと思いながらも、三成は黙って出口へ足を運ぶ。

「・・・松永」

「なんだね?」

「刑部を、助けたこと・・・礼を言う」

「何を。たかだか遊びに怪我までしてはいけない」

優雅に笑うが、あの一瞬の火薬使いは可烈としか言い表せない技だったのは、大谷も感じていた。

爆発で鉄球を吹き飛ばした後、暫く周囲が赤い空気に染まったかと思われるほどの力である。

「散々に言われた借りを返そうとしたのであろ?」

「ふふ、さてね」

「土埃で気持ちが悪い。早く行くぞ」

「ならば三成、帰りに湯でも浸かって行くか?」

「・・・刑部の身体に良い所なら行く」

「おうおう、では行こう。弾正殿、共にどうだ?」

「それは嬉しい誘いだ、是非とも」

先程までの凶悪な様相が嘘のように、和やかな空気で穴蔵から去ってゆく三人。

遠ざかるその声を聞きながら黒田官兵衛は、自分にまたひとつ、凶星が纏わり付いた事を痛感して泣きたくなっていた。

 

 

 

(完)

 

 

 

官兵衛さんは格好のイジられキャラ認定なので、久秀とのお話を書いてみたかったのです。

苛められ過ぎたかな?でも官兵衛さんはタフガイなので、これくらいではめげません。

だから刑部さんにぺちぺち叩かれるんだけどね。本人全く解っていないので無限ループ。

松永さんの火薬使いは、穴蔵の男達からは憧れの存在になっていると思います。

2011.10.19