短編で纏まらなくなりそうなので、これも不定期連載。

松永さんと官兵衛さんに刑部と三成です。

軽い話にしたい。





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大谷吉継は、松永久秀の茶室に招かれていた。

いつも卿の所にばかり押しかけている詫び代わりに、と大谷の身体に障りの無さそうな季節に呼ばれたのである。

戦場で見せる、凶王とは違う狡猾な苛烈さは、目の前の松永には微塵も無い。むしろ教養高い一流の茶人としか見えない所作で茶を点てている。

室も庭も道具も、良い趣味と感覚である。粋者と謳う伊達の小倅など、きっと興奮しきりであろう。

これで本人が柔和な性格だったら、名だたる武将たちがこぞって引き入れに訪れたであろうに。

才能の無駄遣いとでも言おうか、才知が有り過ぎて裏返ってしまったのか・・・

 

「何か考え事かね?」

点てた茶を大谷の前に置き、低く尋ねた。

「ヌシの事を」

「ほう。悪口なら聞かないでおこう」

「ワレが他人を褒めたことがあってか?」

そうだったな、と含み笑いが漏れる。

卿が褒めるのは彼だけだった、という意味合いも含んだ笑いだ。

ゆっくりと茶を飲む大谷を穏やかに見つめながら、松永は口を開く。

「体調は如何かね。これから面倒な季節になって来る」

静かに器を置き、目線を畳へ落としたまま、大谷はそうよなア、と面倒臭そうに返事をした。

「今は時期がヨイからな、身体の事も忘れてしまいそうよ。コレからは年寄りのように、猫でも抱いてぬくんでいるわ」

「ふふ、猫は良いな。しかし気まぐれだ・・・彼のように」

畳から松永へ視線を上げる。目が合うと、二人で低く笑いだす。

「コレ弾正・・・アレは猫より面白いぞ。偶に声が響きすぎて頭痛が起きるがナ」

「あの日輪殿にまで同情されたそうではないかね」

「駒として見るから不便なのであろうよ。ヌシなら解るであろ?三成の本質、とやらを」

松永も自分も似たもの同士だからな、という響きだ。

小首を傾げてうむ、と松永が思案している、直ぐに同意するのは癪らしい。

「私は・・・いや、解らんよ。知りたいとは思うがね、卿と凶王の付き合いの深さには立ち入れない」

「なにを今更、さんざ他人の宝を突ついて回った本人が言う事か」

これには流石に苦笑している松永。

こめかみの辺りを押さえながら、開いた手を大谷に向かってひらひらさせている。

「いや、刑部殿には敵わない。あまり私を苛めないでくれ給え」

「もう降参か?ヌシらしくもない」

「いやいや、卿をからかおうと御呼びしたのに、返り討ちに遭うとは」

「からかわれる材料など、ワレにはないわ」

「なんと。それでは私が一方的だな。悔しい事だ」

お互いに笑いを残しながら、松永は二杯目の準備に入る。

優雅で繊細な所作をゆったりと眺めながら、大谷が口を開いた。

「弾正、暗(くら)を知っておるか?」

柄杓へ伸ばす手を止めて暫し記憶を辿り、ああ黒田殿か、と返事を返す。

「黒田殿と言えば・・・凶王が穴倉へ放り込んだそうではないか。なかなか面白い御仁と聞いているが」

「きゃつの『面白い』はどの『面白い』だと思う?」

「聡い、ずるい、滑稽、愚鈍・・・さて」

大谷の目が、悪戯っぽく笑った。

「ヌシと会わせてみたくてな」

茶筅でしゃきしゃきと茶を点てながら、大谷の言葉を考えている。

「そんな難しい顔をせずともヨイ、悪戯しにゆかぬか、と言っているのよ」

深読みしすぎた松永に、思わず声を上げて笑ってしまう。変に真面目な所がある男なのだ、松永は。

松永も己の素に破顔する。

「これは失礼。刑部殿の遊びの誘いが珍しくて、深読みしてしまった」

「ワレは悪巧みばかりではないぞ」

「やはり卿は楽しい方だ」

ぴたりと茶筅を上げると、二杯目を大谷へ差し出す。

「弾正の度が過ぎる悪戯の方が、むしろ笑ってしまうがな」

器を受け取り、中を眺めながら楽しそうに話し続ける大谷を嬉しそうに見つめる。

「私は誰かとつるむのは嫌いだがね、刑部殿とは一度ご一緒したいと思っていたのだ」

「それは光栄だな。どれ、どうせ官兵衛の所へ行くなら、三成も誘ってみようか」

「楽しい遠足になりそうだ」

「忘れ物が無いようにナ、弾正殿」

「ふふ、よく確認しておこう」

 

 

 

洞窟内に大きなくしゃみが響き渡る。

「官兵衛さん、風邪でも引いたかい?」

「土煙だろうよ、官兵衛さんが風邪引いたとこなんて見たことねえや」

「そうだな、腹を壊したとこだって見たことねえ!」

土方作業風の男達が、好き勝手に怒鳴りあってどっと笑いが起こる。

長い前髪で両目を隠した、筋肉質の男が鼻を啜りながら朗らかに怒鳴り返す。

「おいおい、散々な言い方をしてくれるな!小生だってな、腹も壊すし風邪だってひくぞ!!」

「解ってるよ、違うのは他人よりチョイと運が悪いくらい、だろ?」

また笑いが起こる。

黒田官兵衛も苦々しく笑いながら、さあ、昼飯にしようと休憩の声を掛けた。

手首に繋がれた大きい鉄球を引きずりながら、何となく漠然とした嫌な予感を抱きつつ。




(続)